山岸 将大
動物とテクノロジーが大好きなNOMLABデザイナーの山岸将大です。
平日はNOMLABの一員としてデジタルを空間に活かすプロジェクトに携わり、休日は動物たちに癒されながらも「なにかこのテクノロジーを動物のために活かせないかなぁ」なんて妄想を膨らませている人間です。
今回はそんな山岸がidea seedsという場を借りて、
①動物たちが過ごしている「動物園」を彼らの「ワークプレイス」として捉えなおすという視点の提案。
②乃村工藝社がワークプレイスに関して試みている取り組みを「動物たちのためのワークプレイス」へと展開してみるとどのようなことが考えられるか。
ということに思いを巡らせてみようと思います。
山岸の動物愛を原動力に執筆したため少し長めの記事になってしまいましたが、どうぞ最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
地球規模の重大任務を遂行している動物たち
いきなりですが、みなさんは「動物園の役割」について考えたことがありますか?一般的には娯楽の一つとして認識が強い動物園ですが、動物園の役割はそれだけでなく動物たちの生態を研究し、人々に知ってもらい、そして絶滅の危機にさらされている種がいれば保存する。かけがえのない地球の“種の多様性”を未来に受け継いでいくための大切な場所でもあるのです。
いつものんびりしているようにみえるゾウやライオンたちも実は地球規模での重要な任務を担ってくれているのかもしれませんね。
ホモ・サピエンスだけのオフィス改革なんてずるいぞ!
さて、ここ数年、コロナウイルスをきっかけに私たちの働き方、ワークプレイスに対する考え方は大きく変わりました。リモートワークへの対応に加えて、ウェルビーイングという概念も浸透したことによって社員が幸せに働ける環境を整えるためのオフィス改革を多くの企業が行っています。 そんな中、動物園を歩いていると「きみたちホモ・サピエンスだけ素敵な環境で働けてずるいなぁ、僕たちだって地球の重大任務を背負って日々働いているのに!」なんて声がどこからか聞こえてくる気がするのです。確かにごもっともなご意見。動物園の檻の中、柵の中は彼らの住まいであると同時に、彼らが地球の未来を背負った重大任務を遂行する“ワークプレイス”でもあるのですから。
ということで、新人デザイナーの山岸が動物たちの思いに応え、この場を借りて動物たちの“ワークプレイス”への考え方について一石を投じてみようと思います!
動物の展示手法(飼育環境)だって変わってきた
とはいったものの、改めて調べてみると、動物たちの飼育環境への考え方もヒトのワークプレイスの考え方と同様に、動物園を取り巻く多くの専門家によってすでに議論が重ねられており、時代とともに変化・改善されてきたようです。 動物園が設置され始めた当初は生きた動物の身体的特徴だけを見せる目的で狭い檻の中で単独飼育する展示手法(形態展示)が主でした。しかしながら、近年では動物福祉の観点などから、動物の生態や生息環境に基づいた展示手法(生息環境展示)や野生動物本来の動きを引き出す工夫が施された展示手法(行動展示)など、動物たちの目線でも考えられた飼育環境へ大きく移行しており、より快適なものにするための努力や研究が日々続けられているようです。動物園を動物たちの“ワークプレイス”として捉えてみる
~ヒトのワークプレイスと動物たちのワークプレイスの共通点~
このような現状や流れも踏まえた上で、本記事では動物たちの飼育環境に対しての一つの考え方として「動物にとっての“飼育環境”をヒトにとっての“ワークプレイス”と同様の観点で捉え、ヒトのための試みを動物園にも持ち込んでみたら新しい考え方・面白いアイデアが生まれるのでは?」という小さな視点の提案をしてみようと思います。具体的なアイデアの話に入る前にもう少しだけ、動物の飼育環境をヒトのワークプレイスと同等に捉えることの妥当性(二者の共通点)について考えてみようと思います。 まず、動物たちの飼育環境とヒトのワークプレイスの変化の流れを比較してみましょう。
前章で触れた動物そのものを見せる展示手法から動物たちの本来の姿を引き出す展示手法への移行は大枠で捉えると「管理者・来園者の視点のみでの動物園づくり」から「動物たちの視点を加えた両視点からの動物園づくり」への移行と捉えることができそうです。一方で近年のヒトのワークプレイスの変化についても、従来の「管理者視点での効率を重視したオフィスづくり」から「社員の視点を加えたウェルビーイングを目指したオフィスづくり」への移行と考えることでき、これらは共通した流れであると捉えることができるのではないでしょうか。
このように考えると、時代とともに変化していくヒトの生き方に対する価値観は、その他の動物たちの生き方に対する価値観にも波及していくように思えます。 改善の手法についても比較してみましょう。
近年のオフィス改革の主流は、増築や新築ではなく、予算などの観点で現在使用しているオフィス空間を活かしながらも、社員たちが快適に働くことができるための工夫を施していくという方向性が一般的です。
動物園のリニューアルや飼育環境の改善においても条件は同様で、予算や敷地の観点から現在の施設を活かしながら最小限の投資・工夫で最大限の効果を生み出す方法を探っていくことが重要になります。
例に挙げたような二者の共通点から考えても、社員の幸せを実現させるための試行錯誤や考え方は他の動物たちのワークプレイスにも応用できる可能性が大いにあるのではないかと僕は考えています。
乃村工藝社のワークプレイスでの試みを動物園にも展開してみた!
さて、今回は本記事を執筆するにあたって弊社のワークプレイスへの取り組みや考え方を動物たちのワークプレイスに応用するとどのようなことが考えられるかという具体的なアイデアを膨らませてみました。Idea 01_「人流解析」の動物園への展開
乃村工藝社のコミュニケーション・スペース「RESET SPACE」では設計・運用の段階で人流データを活用し、分析・改善を行ってきました。
RESET SPACEの利用者の人流データを分析していくと、“自動販売機”が人流において大きな引力を持っていることがわかり、その影響を考慮して什器の配置を変更すると中央部での人々の交流が増えるということが実現できたそうです。この知見を活かし、後年設置されたRESET SPACE_2では自動販売機を空間の中心に敢えてもってくることでより利用者の回遊性を向上することができています。
このような空間の設計手法をトラたちのワークスペースに展開してみましょう。その名も「“虎”流解析によるウェルビーイングなトラ空間」。 現在、トラたちのワークプレイスではトラ本来の野性的な動きを引き出してストレスを解消させるためにタイヤやブイなどの遊具を設置するなどの工夫が試みられています。
ここに“虎”流解析を導入して、トラの動きを分析してみたらどうでしょう。トラの本来の姿を引き出すために設置された遊具たちもヒトを惹きつける自動販売機と同じように、配置を変えるだけでも使用頻度が上がったりトラたちの興味を惹きやすくなったりする可能性があるのではないでしょうか?
動物たちアクティブな動きをより多く見ることができるようになれば動物園の魅力も倍増しそうですね。
Idea 02_「メタバースオフィス」の動物園への展開
乃村工藝社では、リモートワークをするヒトのウェルビーイングに貢献する取り組みとしてH2L株式会社とBodySharingⓇ技術を用いたメタバースオフィス『BodySharingⓇ for Business』の開発・運用実験を進めています。
『BodySharingⓇ for Business』では、ワーカーのふくらはぎに装着した筋変位センサデバイスから、「元気度」や「リラックス状態」を推定し、メタバースオフィス内のアバターに自動反映させる機能があり、他者との共感を生み出すことでコミュニケーションの量と質を向上させることを期待しています。
この試みを動物のワークスペースに展開してみましょう。これは、、、「メタバースオフィ“Zoo”」とでも名付けましょうか。(いまクスっと笑ってくれた方、ありがとうございます。) 飼育員さんたちにとって動物たちの健康管理は非常に重要な仕事の一つですが、多忙な飼育員さんたちがちょっと目を離しているうちに動物たちが異常行動をしていたり体調不良のサインを出していたりということもあるかもしれません。
そこで動物たちにセンサデバイスを装着してメタバース空間のアニマルアバターに彼らの体調や行動を反映させてみたらどうでしょう。異常があった際に飼育員さんに通知が来たり、目を離していたどのタイミングで異常行動をとっていたのかが記録されていたりすれば、今まで以上に動物たちの健康管理に対して柔軟に対応することができるかもしれません。またこれらの記録は動物園の大きな役割の一つである「調査・研究」の貴重なデータになることも大いに期待できます。
Idea 03_「表情から感情を解析し、ビジュアライズする技術」の動物園への展開
乃村工藝社ではヒトの表情を解析し、その場の雰囲気や盛り上がりなどを可視化する装置「emograf(エモグラフ)」を用いて、空間内に滞在する人の感情を分析・予測・データ化する空間DXサービスを展開しています。
この試みを動物のワークスペースに展開すると
「動物たちのコンディションをよりよい状態に保つルートへ来園者を誘導する園内表示」を実現できるかもしれません。 動物園の動物たちの中にはヒトに見られることでストレスを感じている動物たちがいることも明らかになっています。
ここで動物たちの動きや表情、バイタルデータなどから感情を可視化し、「人が集まりすぎてストレスがかかっている」などといった情報をビジュアライズすることができたらどうでしょう。動物たちの感情が可視化された表示をみて、「ちょっと今は人が多すぎてライオンさんは緊張しているみたい、ライオンさんを見るのは後にしようね!」などと動物の感情考慮するルート決めを来園者自らできるような未来が実現できるかもしれません。
ヒトと動物たちがこのような形で間接的にコミュニケーションをとって適切な距離感を保つことができる動物園が実現出来たらとっても素敵だと思いませんか?
あなたも未来の動物園を妄想してみてはいかが?
さて、いくつかの乃村工藝社の取り組みをピックアップして妄想を膨らませてみましたがいかがでしたでしょうか。ヒトのワークプレイスへの取り組みを一つの起点に未来の動物園を妄想してみるだけでも、なんだかワクワクしてきませんか?この記事があなたにとって新しい考え方や発想のきっかけになったなら嬉しいなと思います! ここまで読んでくださりありがとうございました。
それではまたー!